伝記
マレー・ロスバードは、1926年3月2日に生まれ、1995年1月7日に没したアメリカ合衆国の経済学者・歴史学者・政治哲学者である。オーストリア学派の経済学者であり、アメリカのリバタリアニズムの一形態として「無政府資本主義」と呼ぶ自由市場無政府主義の理論体系を唱えたことで知られる。著書は20冊を超え、アメリカのリバタリアニズム運動の中心的な人物とみなされている。
オーストリア学派の概念を土台に、自発的秩序や自由市場による通貨の供給を論じ、中央集権的な計画経済を糾弾した。政府が社会や経済を強制的に管理することの廃止を主張し、政府の独占的な権力こそ自由や長期的な民衆の福祉に対する最大の脅威だと考えた。国家を「組織化された大規模な収奪組織」とみなし、政府が独占して供給するサービスはすべて民間部門のほうがより効果的に供給できると結論づけた。公共の利益をうたう規制や法律の多くも、官僚機構が自分たちの権力を広げるためのものだとして退けている。国家と結びついた経済的エリートが、法律や規制を自分たちに有利に、競争相手に不利に使っているとして、国家コーポラティズムも非難した。
1950年代には自分を生来のアナキストだと考え、のちに「無政府資本主義者」という語を使うようになった。「資本主義はアナキズムの完全な表出であり、アナキズムは資本主義の完全な表出である」と記し、彼の描くモデルでは、防衛や司法のサービスは自由市場で競争する機関が提供し、消費者が選ぶことになる。1982年の著作『自由の倫理学』では、完全な自己所有の権利を、すべての人間に適用される唯一の共通の道徳規範として主張した。
貨幣についても、政府が通貨を独占して保証し流通させることは本質的に有害で非倫理的だと信じた。ミーゼスやハイエクの景気循環のオーストリア理論を受け継ぎ、過度の信用拡大は資本資源の誤った配分を招いてバブルを生み、やがて恐慌に至ると考えた。そのため、不換紙幣のもとでの中央銀行や連邦準備制度を「合法化された偽造紙幣」と呼んで強く反対し、市民が金を日常の通貨として使うことを政府が禁じている状況を、誰も逃れられないポンジ・スキームにたとえた。外交では軍事的・政治的・経済的な干渉主義に反対し、1964年には「嘆かわしいアメリカ帝国主義」が現在の主要課題だと書いた。1973年のインタビューでは、外交における孤立主義は国家権力を削り取るという国内の課題の完全な表れだと述べている。ランドルフ・ボーンの「戦争は国家の健康である」という言葉を信じていたとされる。
子供の権利については、女性の中絶の権利を「自分の身体への絶対的な権利」として支持する一方、子供にも両親から「逃走」する権利があるとし、成人なら罪にならない行為で子供が矯正院に収容されることを批判した。1974年には、平等を追い求める運動は破滅的な結果になると論じる書物を著した。その思想にはさまざまな批判が向けられ、ズウォリンスキーは自己所有の議論が説明と規範の混同に基づくと指摘し、マッケイは彼の思想はアナキズムではないと主張した。日本では『自由の倫理学』や『新しい自由のために』などが翻訳されている。
同じ年に亡くなった人物
- イージー・イー (1995年没)
- ナオミ・ファインブルン=ドーサン (1995年没)
- エドワード・バーネイズ (1995年没)
- ハリー・ガーディノ (1995年没)
- クレア・パターソン (1995年没)
同じ地域に関係する人物
- ネルサン・エリス (2017年没)
- Paul Avrich (2006年没)
- エドウィン・マーカム (1940年没)
- ダニエル・デ・レオン (1914年没)
- ロバート・ランシング (1994年没)