HISTORICAL PERSON · 2009年没

ミロラド・パヴィチ

セルビアの小説家。通常の順序で読まなくてもよい、仕掛けに富んだ幻想的な小説を発表し、作品は多数の言語に翻訳された。

生涯
2009年没
死亡地
セルビア共和国(ベオグラード)
出生地
セルビア共和国(ベオグラード)
出典
世界地図
セルビア共和国(ベオグラード)

伝記

ミロラド・パヴィチは1929年10月15日、当時のユーゴスラビア王国のベオグラードに生まれたセルビアの作家である。18世紀以来、六世代にわたって著名な書き手を輩出してきた知識人の家に生まれ、おじのニコラ・パヴィチも、クロアチア系のカイ方言で書く作家だった。ベオグラード大学で文学の学位を得たのち、ザグレブ大学で文学史の博士号を取得している。小説家であるとともに、詩人、翻訳者、文学史研究家としても知られた。

文壇への登場は詩集によってで、1969年に『重ね書き写本』、1971年に『月の石』を刊行した。詩はやがて英語に訳され、『現代ユーゴスラビア詩集』にも収められた。その後は散文に力を注ぎ、いくつもの短編集を発表する。1984年に出した最初の長編『ハザール事典』は、詩的な事典の形をとった作品で、刊行時から高い評価を受け、「21世紀最初の小説」と称賛されたという。作品は事実と空想の入り混じったハザール人の物語を扱っている。

この小説は、キリスト教徒、ユダヤ教徒、イスラム教徒それぞれの視点から書かれた三つの事典で構成される。ハザールの大可汗が解釈の難しい夢を見て、三大宗教の代表者を呼び集め、最も説得力のある説明をした宗教に部族全体が改宗すると約束する。三つの事典は同じ出来事を異なる形で語り、読者は断片から一つの筋を組み立てなければならない。読者は最初から通して読むことも、事典のように項目を引いて読むこともでき、巻末には索引まで付く。男性版と女性版があり、違いはわずかだが決定的だとされる。日本語訳は工藤幸雄によって1993年に刊行され、2015年には創元ライブラリにも収められた。

続く1988年の『お茶で描かれた風景』は、小説とクロスワードパズルを組み合わせた作品で、第二次世界大戦中にギリシャで消息を絶った父の運命をたどるため、ベオグラードの挫折した建築家が旅に出る。『風の裏側』は、十七世紀の石工レアンドロスと現代の女子大生ヘーローの物語を本の両側から始め、真ん中には何も書かれていない青いページを置いた。『帝都最後の恋』は、章番号の前にタロットカードの図柄が置かれ、読者は実際にカードを併用して読むよう勧められる。ほかに、百通りの結末を用意した作品もある。こうした作品は、物語の展開や始まりと終わりという従来の小説の約束事を揺さぶるものとされ、三十を超える言語に訳され、日本でも『風の裏側』が1995年に青木純子の訳で、『帝都最後の恋』が2009年に三谷惠子の訳で出版された。ヨーロッパや南米でも人気を博し、セルビアや旧ユーゴスラビアで数多くの賞を受け、ノーベル文学賞の候補としてもたびたび名前が挙がった。

パヴィチはノヴィ・サド大学で哲学を講じたのちベオグラード大学に移り、1991年にはセルビア科学芸術アカデミーの会員となった。ロシア文学の翻訳も手がけ、1993年には最初の戯曲を発表している。2009年11月30日、心臓発作によりベオグラードで世を去り、妻ヤスミナ・ミハイロヴィチと息子イヴァンが残された。前年には娘イェレナが自ら命を絶っていた。遺体は、ベオグラードの新墓地にある偉人たちの小路に葬られた。

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