伝記
イルファーン・カーンは、1967年1月7日に生まれ、2020年4月29日に没したインドの俳優である。映画、テレビ、舞台で活動し、インド国内にとどまらず、イギリスやアメリカの作品にも出演した。
ムスリムの藩王国太守の家系に生まれた。ラージャスターン地方の名門イスラム教徒の家の長男で、母方は旧トンク藩王国の君主の家に連なり、父はタイヤ会社を営む実業家だった。修士課程に在学中に奨学金を得て、国立演劇学院で3年間のディプロマ・コースを学んだ。1987年に卒業し、この学院で後に妻となる作家のスタパ・シクダルと出会い、のちに二人の息子をもうけたとされる。
学院を出ると、ボンベイ(現在のムンバイ)に移り、国営放送のドゥールダルシャンなどで放送されたテレビドラマに出演した。1980年代後半からテレビの脇役として経歴を積み、1990年代には映画界にも進出したが、小規模で無名の作品が続いて注目されなかった。1988年にはミーラー・ナーイル監督の『ミシシッピー・マサラ』に出演したが、編集の段階で出演部分は削られてしまった。ただし、削られたのは同じ監督の『サラーム・ボンベイ!』での小さな役だったともいわれ、作品名は一致しない。1990年代の出演作は目立たなかったものの、一部の演技は批評家に評価されたという。
転機は2001年である。演技に退屈し、先行きに迷っていたころ、英国の監督アシフ・カパーディアの『ザ・ウォリアー』の主役を引き受けた。日本の伝承に着想を得たこの作品で、ラージャスターンの富豪の手下として働く殺し屋が、その稼業を捨てて救いを求めヒマラヤへ向かう男を演じた。映画は各国の映画祭を巡り、英国アカデミー賞の作品賞を受けた。ほとんど台詞のない役と内にこもった演技が、経歴を押し上げたとされる。続いて2003年には、シェイクスピアの『マクベス』を翻案した『マクブール』や『ハーシル』に出演し、後者の演技でフィルムフェア賞の悪役賞を受けた。2007年の『ライフ・イン・ア・メトロ』では助演男優賞に輝いた。2008年には興行的に成功した『クレイジー4』や、批評家に演技を称えられた『ムンバイ・メリ・ジャーン』に出た。2009年の『ビッルー』では主演を務め、製作者のシャー・ルク・カーンが短い出演で花を添えた。2012年の『パーン・シン・トーマル』では、陸上競技の王者から盗賊になる男を演じ、批評家の支持を集めた。本格的に映画俳優として活躍し始めたのは、2000年代に入ってからである。
2006年、ミーラー・ナーイルの『その名にちなんで』で主要な役を演じてからは国外での評価も高まり、その後は『スラムドッグ$ミリオネア』などの国際的な作品にも出た。さらに『ライフ・オブ・パイ』や『ジュラシック・ワールド』にも出演した。2016年には、日本、オランダ、カナダの合同制作によるNHKスペシャルドラマ『東京裁判』で、インド代表判事ラダ・ビノード・パールを演じた。
2018年3月に神経内分泌腫瘍と診断され、ロンドンで治療を受けた。2019年2月にインドへ戻り、『イングリッシュ・ミディアム』の撮影に加わった。2020年4月28日にムンバイの病院へ運ばれ、結腸感染症の治療を受けたが、翌29日に死去した。その数日前に亡くなった母の葬儀には、新型コロナウイルス感染症の流行に伴う外出制限のため、ジャイプルに行けなかったという。
同じ年に亡くなった人物
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