HISTORICAL PERSON · 紀元前 99年(推定)没

アグラオニケ

古代ギリシアのテッサリア出身の女性で、天文学者と認識される歴史上最初の女性。月食を予報し、月を天から引き下ろす魔女とも言われた。プルタルコスらの記述が残る。

生涯
紀元前 99年(推定)没
死亡地
—
出生地
—
出典
世界地図
位置情報未登録

伝記

アグラオニケは、古代ギリシアのテッサリア出身とされる女性で、最初期の女性天文学者の一人に数えられる。テッサリアのアガニケとも呼ばれ、父はヘゲトル、またはヘゲモンとされる。生没年は不明で、活動時期も確定していない。紀元前三世紀半ばから紀元後一世紀末までの間に生きた可能性がある一方、紀元前五世紀以前の女性について伝説が発達したとする見方や、神話上の存在だったとする説もある。家族との暮らしや教育の経緯について、確かなことはほとんどわかっていない。

月の満ち欠けや月食の周期に通じ、月食の起こる時を前もって知ることができたとされる。その知識を使い、月が地球の影に入って暗くなる時刻に合わせて、空から月を引き下ろす力が自分にあると人々に信じさせたという。テッサリアには月を天から引き下ろす魔女たちの伝承があり、アグラオニケもその一人として知られた。月食を予報できたことを歴史的な事実と考えるならば、その計算方法は本人だけの独創ではなく、バビロニアの天文学の知識を受け継いだ可能性がある。そこから、バビロニアの知識がギリシアへ伝わったセレウコス朝期以降、プルタルコス以前の人物とみる推定もなされている。

ただし、月食の予測がそのまま月を消す魔術として受け入れられたかについては疑問もある。通常の皆既月食では、月は暗くなって色を変えても、肉眼で見ることができるからである。西洋古典学者ビックネルは、まれに月が見えなくなるほど暗い皆既月食が起こる点に注目した。アグラオニケが予報したのもそのような月食だったと推測し、活動時期を紀元前二世紀から紀元前一世紀の間と考えた。しかし、この説は天文学的な妥当性と、古代の物語を文字どおりに解釈する点の双方から批判された。年代だけでなく、天文知識と魔術の伝承をどのように結びつけるかも、見解の分かれる問題である。

自らの能力を誇る姿は、「月がアグラオニケに従うように」というギリシアのことわざにも残った。また、月を引き下ろしたと称した直後に災難に見舞われ、親族を失ったという話もある。この話には、自分から不幸を招くことを意味する、月を自分に向かって引くということわざが結びつけられている。本人の死の時期や事情は明らかではない。後世には天文学以外の芸術でもその名が用いられた。ジャン・コクトーの戯曲『オルフェ』では、名にちなむ女性アグラオニスが月を崇拝する集団の指導者として現れ、主人公の妻ユリディスを冥界へ送る役割を担う。一九五〇年の映画版ではユリディスの友人となり、ジュリエット・グレコが演じた。ジュディ・シカゴの美術作品『ディナー・パーティー』では、床に記された九百九十九人の神話上または歴史上の女性の一人に含まれている。一九九一年には、金星探査機マゼランが観測したクレーターの一つに、その名が正式に採用された。

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