伝記
ティトゥス・マッキウス・プラウトゥスは、古代ローマの劇作家である。生年は紀元前254年ごろ、没年は紀元前184年とされる。古ラテン語の時代の人で、彼の喜劇は最初期のラテン文学に影響を残し、全体が今日まで伝わる最古のラテン語文学作品でもある。作品は、ラテン文学の創始者リウィウス・アンドロニクスが考案した、ギリシア風の喜劇の形式で書かれた。
若い頃の経歴はあまりわかっていない。北イタリア、現在のエミリア・ロマーニャ州にあるサルシナという小さな町の出身とされる。モリス・マープルズによれば、若い頃は舞台大工か場面転換の係として働いており、演劇への愛はそこから生まれたのかもしれないという。やがて俳優としての才能が見いだされ、道化役マックスにちなむ「マッキウス」と、平たい足や垂れた耳を意味するとされる「プラウトゥス」を名乗るようになった。伝承では、十分な金を稼いで海運の事業に乗り出したが失敗し、その後は肉体労働に就き、余暇にギリシア演劇、とくにメナンドロスの新喜劇を学んだという。この勉強が、後の作品を書く力になったとされる。作品は紀元前184年までに世に出て、彼は名前だけで舞台の成功を約束する存在になるほどの人気を得た。
彼の喜劇の大半は、ローマの観客のためにギリシアの作品を翻案したもので、多くはギリシアの劇作家の作品を直接の下敷きにしている。ただし原作の文章を作り替え、土地の観客に受ける味付けを加えた。娯楽に飢えた観衆を楽しませるため、駄洒落や、登場人物の性格を映した名前などの言葉遊びを多用した。主に言葉の面白さで観客をひきつけたぶん、物語全体の説得力は他の作家に譲るといわれる。
現存する作品のうち『アンピトルオ』は、テーバイを舞台に、将軍が戦に出ている間、神ユピテルが将軍に化けてその妻アルクメナのもとを訪れる話である。ユピテルの子メルクリウスは奴隷ソシアに化けて見張りに立ち、本物のソシアをからかって殴る。帰った将軍は妻と口論になるが、最後は雷鳴が轟き、乳母が出てきて、妻が奇跡的にヘラクレスを含む二人の男児を生んだと告げられ、ユピテル自身がすべてを説明する。『アシナリア』は、金のない息子が遊女に恋をしたのを知った父が、奴隷リバヌスに、裕福な妻をだまして金をつくらせようとする筋である。恋敵が妻に告げ口をしたため、妻は怒って乗り込み、夫を連れ去る。『アウルラリア』は、家で黄金の壺を見つけた吝嗇な老人エウクリオが、盗まれることを恐れて右往左往する物語である。裕福な隣人メガドルスが老人の娘に求婚するが、娘は以前に乱暴を受けて身ごもっており、メガドルスの甥リュコニデスが自分の仕業だと打ち明ける。結末の部分は失われている。この作品は、モリエールの『守銭奴』の一部の下敷きになったとされ、プラウトゥスはシェイクスピアやモリエールなど文学の巨匠たちにも影響を与えた。
伝わる墓碑銘には、プラウトゥスが死んだので喜劇は嘆き、舞台は人けがなくなり、笑いと冗談と機知が、数知れぬ旋律とともに涙したとある。日本でも、東京大学出版会の『古代ローマ喜劇全集』や京都大学学術出版会の『ローマ喜劇集』などで作品が訳されている。
同じ年に亡くなった人物
- 前少帝 (前漢) (紀元前184年没)
同じ地域に関係する人物
- Antoine-Pierre IX Hassoun (1884年没)
- ルイジ・コメンチーニ (2007年没)
- Georges Cottier (2016年没)
- ジェームズ・ガンドルフィーニ (2013年没)
- グイド・ブリニョーネ (1959年没)