伝記
ディノン(ディノーンとも)は、イオニアの都市コロフォンの出身とされるギリシア人の歴史家である。紀元前360年から340年ごろに活動したとされ、アケメネス朝ペルシアの歴史を書いた。のちに『アレクサンドロス大王史』で知られるアレクサンドリアのクレイタルコスの父である。
主著はペルシアの歴史を扱った『ペルシア史(ペルシカ)』である。この作品は現在は失われ、後世の著作家による引用や言及を通じて断片が知られるにすぎない。ビザンツ時代の事典『スダ』はこの作品をカッシウス・ディオの著作と取り違えている。作品はクテシアスの仕事を引き継ぐ形で、近東の歴史を、クテシアスが筆を置いたところから書き進めたものである。クテシアスと同じく、伝説のアッシリアの女王セミラミスの時代から説き起こした。その後、キュロス大王による帝国の成立から同時代までのペルシア史を語り、ペルシアによるエジプトの再征服で終えている。アルタクセルクセス3世によるエジプト征服は前343年にあたる。物語は、クテシアスの作品と同様に、アッシリア、メディア、ペルシアの三つの部分に分かれていたといわれる。一方で、少なくとも三つの部分からなり、それぞれが数巻を含んでいたとする説明もあり、区分の原理は今では確かめられない。
内容は出来事の記述にとどまらなかった。ペルシア人の習俗や伝統、大王の宮廷の豪奢や特権、身分の序列が描かれ、神話や奇談、艶めいた話も含まれていた。作品はクテシアスの精神を受け継ぎ、先行者と競おうとする意識や、偏りのある伝承の採用、刺激的な逸話への好みを特徴とする。ギリシア人の作り話と近東由来の伝承を見分けるのは容易でないが、いくつかの照合からは、ディノンが現地の資料を利用できたことがうかがえる。
古代では、ディノンは名の知られた著者であり、ペルシア史の信頼できる典拠とみなされた。ローマの伝記作家コルネリウス・ネポスがそう評している。プルタルコスは『アルタクセルクセス伝』で主要な典拠として用い、『テミストクレス伝』でも名を挙げた。アテナイオス、大プリニウス、アイリアノス、ディオゲネス・ラエルティオスにも引かれている。プルタルコスは、クテシアスの記述を正し補うためにディノンを用いたとされ、クテシアスが頼りにならなくなる後半部分の土台になったらしい。ただし、同じ時代のクメのヘラクレイデスの分との区別はつけにくい。ディノンの時代は、エジプト征服を語っていることと、クレイタルコスの父であることから定まる。クテシアスとアレクサンドロス伝承の間をつなぐ存在でもあった。クレイタルコスが自らの歴史を書くとき、父の著作から多くを得たのではないかとも推測されている。
同じ年に亡くなった人物
- Pausias (紀元前400)
- Philistion of Locri (紀元前400)
- エリスのパイドン (紀元前 400年(推定))
- ゼウクシス (紀元前 400年(推定))
- レオカレス (紀元前 400年(推定))
同じ地域に関係する人物
- コロポーンのアンティマコス (紀元前347)
- ズュベイデ・ハヌム (1923年没)
- ヒッポナクス (紀元前600)
- ゼノドトス (紀元前259)
- カリノス (紀元前700)