伝記
エクパントス(エクファントス)は、古代ギリシアのソクラテス以前の哲学者であり、ピュタゴラス派の天文学者とされる人物である。紀元前4世紀の人とされ、シラクサの出身とも、クロトンの出身ともいわれる。ただし、その生涯の詳細は歴史的にほとんど分からず、実在しなかった可能性さえ指摘されている。
出身についての伝えは分かれている。学説収集家アエティオスと教父ヒッポリュトスはシラクサのエクパントスに言及し、アエティオスはこの人物をピュタゴラス派と呼ぶ。新プラトン主義者イアンブリコスもピュタゴラス派のエクパントスを知っており、おそらく同一人物だが、イアンブリコスはクロトン出身者の一覧にその名を載せている。どちらの出身地が信頼できるのかは定かでない。そのほかに生涯について知られることはなく、伝記作者はこの人物について何も語っていない。生きた時期は、思想の特徴から前4世紀とされ、前5世紀末に生まれたとも考えられている。研究者は、タレントゥムのアルキュタスや、シラクサのヒケタスと同時代の人と見るのが普通である。19世紀の文献学者アウグスト・ベックは、ヒケタスの弟子だったと考えた。ただし、この仮説の根拠は、どちらも地球の自転が重要な役割を果たすという弱い手がかりにすぎない。実在そのものにも疑いがある。ポントスのヘラクレイデスが著した対話篇『天について』に登場する、多少なりとも架空の対話相手がエクパントスにほかならない、という見方が有力とされる。ポール・タヌリは、エクパントスの宇宙論がすべての点でヘラクレイデスのものと一致することを指摘した。また、ピュタゴラス派と呼べるのかという点にも難しさがあり、原子論のピュタゴラス派的な先駆けだったのか、逆に原子論をピュタゴラス派の思想に合わせたのかは決められない。
伝えられる学説では、世界は分割できない物体、つまり原子と、空虚からなる。原子は大きさ、形、力によって区別され、感覚される事物の素材となる。アエティオスは、ピュタゴラス派のモナド(単位)に物体としての実体を与えた最初の人物としてエクパントスを挙げている。運動の原因は、物体の重さや外からの衝撃ではなく、すべてのものに内在する神的な力であり、それを精神(ヌース)または魂と呼んだ。宇宙はこの神的な力のあらわれであり、摂理によって導かれ、球形をしている。宇宙は一つしかないとし、複数の宇宙は退けた。原子の数は無限とされるが、一つの球形の宇宙という考えとは両立しないため、伝承の誤りで、実際は無限ではなかったと読まれている。
天文学では、地球が宇宙の中心にあるという、当時の多くの天文家や自然哲学者と同じ立場をとった。そのうえで、地球は車輪のように、中心の軸を中心に西から東へ自転すると考えた。この点でヘラクレイデスと並べられ、地動説を支持した人物としてエウセビオスに挙げられるが、太陽のまわりを公転するとは考えていなかった。ヒッポリュトスによれば、客観的な認識は不可能で、人はそれぞれ自分が実在と思うものを自分の考えで決めるのだと主張したともいう。
ストバイオスは、エクパントスが書いたとされる論文『王権について』の断片を4つ伝えている。ドーリス方言で書かれたこの論文は、確実にエクパントス本人のものではない。過去の有名なピュタゴラス派の名を借りて書かれた偽書のひとつで、成立はヘレニズム期とも、ローマ帝政期ともされる。
同じ年に亡くなった人物
- プティア (紀元前400)
- Diphilus of Sinope (紀元前400)
- ケルソブレプテス (紀元前400)
- アエティオン (画家) (紀元前 400年(推定))
- アスパシア (紀元前400年没)
同じ地域に関係する人物
- ゲロン (シュラクサイの僭主) (紀元前478年没)
- シュラクサイのアガトクレス (紀元前289年没)
- ニキアス (紀元前413年没)
- ヒエロン2世 (紀元前215年没)
- ラマコス (紀元前414年没)